福岡地方裁判所 昭和44年(む)845号 決定 1969年9月29日
被疑者 末広和春
決 定
(被疑者氏名略)
右の者に対する窃盗被疑事件につき昭和四四年九月二八日福岡地方裁判所裁判官がなした勾留請求却下の裁判に対し、福岡地方検察庁検察官から原裁判の取消を求める準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件準抗告の申立を棄却する。
理由
本件準抗告申立の理由は検察官提出の「準抗告及び裁判の執行停止申立書」記載のとおりであるからここにこれを引用する。
よつて本件記録を検討するに、被疑者は、昭和四四年九月八日、同年五月一日田川市内でダイナマイトを窃取したという被疑事実(以下「別件」という)で逮捕され、同月一〇日勾留され、同月一九日事案複雑、共犯者取調未了の理由で同月二九日まで勾留期間が延長され、同月二六日処分保留のまま釈放されたところ、同日本件被疑事実により逮捕され、本件勾留請求となつたことが認められる。
ところで、本件記録によれば、本件窃盗事件は昭和四四年三月二九日発生し、四月初め頃からその容疑者として本件被疑者が特定されていたが所在不明のため捜査が中断されていたこと、そして右別件勾留期間中の九月一七日本件被疑事実につき被疑者はその一部を自供し(ただし調書は作成されていない)、同月二五日その自白調書が作成されていることが認められる。また当裁判所の取寄せた別件の捜査記録によれば、右勾留期間中になされた別件の捜査としては、九月九日、一七日、一九日、二二日、二三日の各日付の被疑者の供述調書、同月二六日付の共犯者溝田輝男の供述調書が作成されているのみで、その他の関係者の取調べはすでに五月頃に終つており、右勾留期間中にはなんら取調べをした形跡がないことが認められる。したがつて右勾留期間中に本件被疑事件についても調をすることが十分に可能であつたことが認められる。
以上認定したところから、本件被疑事件については別件の勾留期間中に十分に取調をすることができ、現にその一部の取調がなされているにもかかわらず、再度本件被疑事実について逮捕、勾留をくりかえすことは、いわゆる逮捕、勾留のむしかえしであつて、起訴前の逮捕、勾留につき厳格な時間的制約を設けた法の趣旨に反する違法なものというべきである。
従つて本件勾留請求を却下した原裁判は結局において相当であり、本件準抗告申立は理由がないので、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。